「公開と参加による司法のファンダメンタルズの改革」

研究計画

研究計画

研究の背景

 憲法学にとって違憲審査制が重要であることは明らかです。法学雑誌を見れば、違憲審査制の特集がよく組まれています。例えば、「違憲審査の手法」(法律時報83巻5号)、「憲法最高裁判例を読み直す」(論究ジュリスト1号)、「憲法解釈と人事」(法律時報86巻8号)などがあり、判例の解釈論的検討にどちらかといえば重点が置かれています。これは、最高裁判所の違憲判決の評価を巡り議論があること、そして、法科大学院教育と判例の密接な関連から、理由のあることだと思います。ただ、その一方で、違憲審査制の制度的検討や司法の民主的基盤に取り組む研究はそれほど多くはないようです。

 そうしたなかで、見平典『違憲審査制をめぐるポリティクス』が、我が国の違憲審査活性化について、アミカス・キュリィの導入を検討しているのが注目されます。見平前掲書は、アミカス・キュリィの制度が「多様なアクター・多様な見解・多様な利害が裁判手続に参加することを可能にすることによって、裁判手続の民主的正統性を高める機能を果たす」と述べています。また、泉徳治元最高裁判所裁判官は、回想録(『私の最高裁判所論』)のなかで、「各裁判官専属の調査官(任期付き職員)」や憲法問題の専門的な調査・研究を行う「憲法調査官や憲法研究員」を提言しています。さらに、滝井繁男元最高裁判所裁判官は、「最高裁の裁判官選任過程の透明さ」は「全く筋道がついてない」と述べています(「わが国最高裁判所の役割をどう考えるか」)。

 本研究に先行するものとして、研究代表者及び研究分担者がほぼ重なる科研基盤研究(B)「違憲審査制活性化についての実証的・比較法的研究」(平成23年度~26年度)があります。これは、主要国の違憲審査制に精通した研究者による共同研究でした。この研究を遂行するなかで各国の裁判官等にヒアリングする機会があったのですが、そこで、制度改革とリンクしたソフト面の重要性を再確認することになりました。また、藤田宙靖元最高裁判所裁判官に対する「最高裁裁判官と調査官」についてのヒアリング、西川伸一教授(政治学)による研究会報告「最高裁事務総局幹部人事の近年の動向」も、重要な意味を持ちました。以上の研究蓄積に基づき、「公開と参加」をキーワードとする本研究を構想しました。

研究の目的

 「国民に基盤を置いた司法」を標榜する司法制度改革によって裁判員制度が導入され、司法は一定の変容を遂げることになりましたが、改革は最高裁判所には及ぶことはありませんでした。本研究は、「公開と参加」をキーワードにして司法のファンダメンタルズの改革を提示することを目指しますが、その際、最高裁判所に焦点をあてることが重要と考えています。「公開」については、裁判のメディア公開のほか、裁判・裁判所情報の公開が注目されます。さらに、「参加」については、最高裁判所裁判官の国民審査のほか、裁判所以外の「専門知」(研究者、弁護士等)の参加が検討対象です。具体的には、最高裁判所裁判官選出への「専門知」の参加、裁判に直接利害関係を持たない人の参加を認めるアミカス・キュリィ等について検討を行います。また、「国民に基盤を置いた司法」ということから、司法過程と民主主義の関係について、最高裁判所事務総局による司法行政も分析の対象とする必要があります。以上の検討を通じて、司法の民主的基盤の強化、及び違憲審査制のいっそうの活性化の道筋が示されると考えています。

研究方法

 本研究は、三段階のプロセスから構成されます。第一段階は、裁判の公開・裁判情報の公開、裁判への様々な参加について、日本及び主要国を対象に情報収集を行い、問題の所在に関する研究メンバー間での認識の共有を進めます。次に第二段階では、司法、参加、公開、民主的基盤、及び専門知に関する原理的考察を進め、多様なテーマを含む本研究の統合を図ります。一方で、個別テーマの研究を深化させるべく、ヒアリングを実施するとともに、ゲストスピーカーを招請してワークショップを開催します。そして、第三段階では、以上の研究成果に基づき、司法のファンダメンタルズの改革を図るべく具体的提言を行います。そして、本研究が達成した成果のなかで、複数の国の研究にまたがり相互の批判検討を行うことのできるテーマについてシンポジウムを開催し、研究成果を研究者・実務家・マスメディアに発信します。アミカス・キュリィが第一候補です。